幹部級の即戦力採用を検討されている社長に向けて書きます。必ず知っておくべき「即戦力のパラドックス」と、その防護手段を、以下に概説いたします。
***
これまで皆で頑張ってきたけれど、なかなか突破できない限界があるとき。他社さんは楽々クリアされているように見えるのに、なぜわが社は突破できないのか。海外事業では、その拠点ごとに日系他社さんと顔見知りになりやすいですから、そうした大手他社さんのメンバーと挨拶する機会も珍しくありません。そうしたとき、大手他社さんには綺羅星のようなメンバーが揃い、大活躍しているように見え、その雰囲気に圧倒されることがあります。
国内では地元を大切にし、丁寧に人を採り育て、愚直に進んできた会社であればあるほど、「もしかするとわが社は人材レベルが一段劣っているのかもしれない」という不安が、ふと胸をよぎります。インターネット採用時代が到来していますから、ここはうまくアピールして日本全国から即戦力幹部を採用できれば、永らくの懸案だった「限界突破」が実現するのではないか。ダメな人材は断ればいいのだから、やってみる価値はある。そうした想いから、「即戦力」幹部採用を社長の特命案件として始められるケースは、よく見られます。
ご反発を頂戴するのは覚悟のうえで直言いたしますが、こうした取り組みは実は非常にリスクが高く、正しいスクリーニングと権限委譲の手順を守らないと、事業資産に甚大なダメージを被る可能性が非常に高いです。これまで目撃してきた例では、6か月から24か月以内に当人が退職してゼロクリアになるシナリオか、12か月を経過したあたりから将来を期待していた在来社員がボロボロと退職し、戦力崩壊するシナリオかの、どちらかに至る例が9割を超えます。よい結果を期待して打った手が、ここまで酷い結末を引き起こすのには驚くばかりですが、そこには明快な機序が正常に働いているだけのことで、それを知らないまま採用・登用に踏み込んでしまった社長の経営判断に、大きな瑕疵があります。
この踏み間違いには、「採用のパラドックス」とも言える普遍的な齟齬が強く作用しています。すなわち、採る側は「(わからないけれど)この人ならなんとかしてくれそうだ」と過大評価し、採られる側は「(わからないけれど)採るってことは、俺がなんとかできる程度の問題なんだろう」と過小評価するという、実はどこにも根拠がない危険な相互依存が働いてしまうのです。ここでは、採る側の社長に向けて、幹部募集~登用の注意点を7つ列挙します。
***
① 名門企業で働けるチカラと、その仕組みを作れるチカラとは、まったく別である。
名門企業のメソッドを身につけ、その有効性を知っている、あるいは多少は教えられることは、たしかにアドバンテージです。しかし、それをあなたの会社にフィットするように焼き直し、皆を巻き込み、定着させてゆくには、はるかに幅広い能力が求められます。知っているだけではダメで、定着させる力があるかどうか、慎重に見極めてください。
② 問題点を指摘できるチカラと、それを解決できるチカラとは、まったく別である。
これは「面接美人」といわれる(危険な)候補者の典型的な特徴です。社長の喜ぶような語り口で、切れ味よく会社の問題点を指摘する。そうすると社長は感動して「この人はすごい」「なんとかしてくれるはずだ」と思い込んでしまう。人に惚れ込む能力は、社長にとって重要な技能のひとつではありますが、面接美人に騙されてしまう局面では、これは危険きわまりありません。評論家か実践家か。どんなアプローチで解決してゆくアイディアがあるかまで、踏み込んで尋ねてみてください。
③ 業界の壁・業種の壁・個社の壁は、社長と応募者が思うよりも10倍厚い。
「近い業界にいました」「よく似た経験があります」というのは、求職者として絶対に強調したいアピール点ですが、これを過大評価しないことです。私自身、戦略コンサルタントとして非常に幅広い業種・会社をお相手させていただき、短期間で猛勉強するルーチンの中にいますが、概要紹介ではなく、個社にピッタリ合った、現場が腹落ちする具体的な改革に至るためには、最低半年は現場百回を重ねることが必須だと痛感しています。この経験から、「即」戦力というのは、字義通りには「存在しえない」のであって、すぐの成果を求めれば求めるほど、その人は無茶に走る危険が高まります。「まず徹底的に現場に入らせてください。役員会に出るのはそのあとにさせてください」と申し出る候補者は、信頼してよいでしょう。
④ 「現場は一任してくれ」という要望ほど、一任してはいけないサインである。
能力を過大評価され、課題を過小評価して現場に乗り込んだ当人は、社長より先に事の重大さに直面します。まず、問題の正体がまるでわからない。在来社員は、お手並み拝見を決め込んで教えてくれない。社長からは、早く成果を見せてと期待される。孤立無援に陥り、時間だけが流れる危険な時期に入ります。
こうした窮地で少しでも猶予を確保するには、「現場は一任してほしい」「報告は私がします」というプロトコルを確保し、情報統制することが最も有効です。そうして必死に机上調査や考察を重ね、レポートらしきものを作り、少しずつ社長に報告する状態を維持しようとします。在来社員は、なにひとつ手出しできていない彼の実態をよく観察していますが、勝手なホウレンソウは厳禁されますから黙っています。会社のピンチが隠蔽される、最も危険な時間です。
逆に、「社長、いつでも自由に来てください。現場の面々と話してやってください」という新任者は、信頼を寄せてよいでしょう。
⑤ 「問題点がたくさんあります」という報告こそが、大問題のサインである。
成果が出てこないことは、時間が経過すれば徐々に露見してきます。成果が出てこない理由を示す必要があるため、「問題の正体がわかってきました」と口火を切り、詳細な障害の列挙が始まります。矛先として最も向かいがちなのは、彼に非協力的な在来社員です。彼・彼女の欠点を鋭く指摘し、人事案に言及することで、責任転嫁と社内政治力の行使に手を伸ばし始めます。「できない理由」でなく「できる方法」を期待されて入ったはずの人材が、彼自身が最大の問題になってしまっている。これは、典型的な事象です。
逆に、「皆で徹底協議して、新たな打ち手を考えました。ぜひ聞いてください」という人物なら、信頼してよいでしょう。
⑥ 「自分の手下を外部から採りたい」という要望は、ほぼ赤信号を意味する。
考査や人事で強権を振るうと、いよいよお手並み拝見の姿勢は頑強になります。協力を得られなくなった彼は、自分の手下を外部から採りたい、と言うようになります。これは、既存の人材アセットと信頼を築けなかった、という証拠です。もはや完全に赤信号ですから、彼の希望を叶えてはいけません。
⑦ 能力の高い在来社員ほど、外様抜擢に深く失望していると覚悟すべきである。
たとえ相対的に薄給だとしても、社業に共鳴し、誠実に一歩一歩学び、長い期間をかけて能力を高め、社長に喜んでもらいたいと貢献してきた在来社員にとって、いつかはと期待していた職位に、突如外様が座ることの衝撃を、社長は過小評価すべきではありません。「自分は人生をかけて誠実にやってきた。無理難題も耐え忍んで会社のために奉公してきた。その仕打ちがこれなのか」と、心の中で叫んでいます。しかも、④や⑤のようなさらなる不条理が重なったとしたら、それを見抜けない社長(あなた)への失望は、限度を突破しても何一つ不思議はありません。
逆に、「皆さんと一緒に大成功するために、部長職を10個に増やすために、その手助けのために私は来ました」と言える新任者には、信頼を寄せてよいでしょうし、社長自身もそのように丁寧に発信し続けることが非常に重要です。
***
以上7つの注意点から得られる、幹部採用のポイントは次の2つです。
ポイント1:候補者のスクリーニング。
名門企業在籍者だからといって、名門企業そのものと誤認しないこと(①)。問題を鋭く指摘できるからといって、解決する力もあると早とちりしないこと(②)。
これには、幅広い企業の幹部職人材と面談・討議してきた経験のあるあなたの参謀役を、セカンドオピニオンとして必ず加えることが効果的でしょう。
ポイント2:試用期間に「見極め」を設けること。
最初の100日は、職位や権限は預けず、代わりにあらゆる現場に入り込める配慮を与え(③)、我が社の真の課題はどこにあり、どのように突破できるか、詳細な提案をまとめてくるように指示してください。
彼を本当に職位に就けるかどうかは、彼がどれだけ既存の人材と信頼を築き、解決方法まで握ってこられるか、組織の雰囲気をよくし、現場の期待感をつくってこられるか、で判断しましょう。
Pan Asia Advisers ではこれら二つのポイントの実現を、全面的に支援する体制を整えています。ご相談ください。

