資本提携の打診を受けられている社長、既存の提携に悩まれている社長に向けて書きます。
どんな事業にも強みと弱みがあり、弱みを補ってくれる相手の出現は「時間を買える」意義(win)があるので歓迎されます。このとき最もシンプルな関係は、相手の能力の一部を「有償で買う」ことです。より能力を発揮してくれれば、当社の業績ものび、より報酬をお支払いできる好循環がうまれ、当社事業の繁栄=相手の事業の繁栄と一体化します。
ところがもし仮に相手側が、我々の持っている強みにも関心があり、それを「手に入れたい」(win)とも思っているとしたら。むろん、もう一本別の逆向きの有償の支援契約(たとえば技術供与契約)を結ぶ方法もありますが、こうした時ときおり、「相互補完的(=win-win)である」という理由で、資本提携が結ばれることがあります。
わたしたちはリーマンショック直前から今日まで19年にわたり、数百件の日本企業の海外進出に立ち合い、さまざまな結婚と離婚とを目撃してきましたが、こうした"win-win"を主たる根拠とした資本提携は、その大半が長続きしませんでした。今日はその真因について書きたいと思います。
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結論を端的に述べるなら、"win-win"とは「当座の取引」で目指すべき状態にすぎず、「持続的関係構築」で目指すべき状態は、"the-win"だからです。
そもそも字義どおり、"win-win"とはそれぞれの背後に別々のエゴがあります。私の欲しいものと、貴方の欲しいもの。そして殆どの場合、これらは「当座」ぜひとも欲しいものであることが多いです。日本側が当座欲しいものの典型は、市場アクセス、異文化オペレーション、低コスト生産などでしょうか。現地側が当座欲しいものの典型は、技術、品質、ブランドなどが多いです。これらは提携構想の時点では、双方ともにぜひとも欲しいものです。が、肝心な点は、何年かたてば「入手完了」してしまうものでもある、ということです。
インドの例でいえば、ヒーロー・ホンダ、エスコート・ヤマハ、TVS・スズキ、バジャジ・カワサキ、これらすべての資本提携は、すこし単純化しますが「相手と結婚した理由(win-win)」そのものが「相手と離婚した理由」に直結していたとみることができます。"win-win"頼みの構図は、長続きしなかったのです。
一方で、ひとたび結んだ縁を育てつづけている幸福な結婚の例もあります。これらについて共通しているのは、冒頭から「エゴの単一化」を大前提に提携をデザインしている、ということです。双方が、ひとつの成功(=the-win)をめざし、それぞれの強みを出し合いながら、ひとつの事業を育てるために、誠実に協力を続ける。
インドの例でいえば、マルチウドヨグとして始動した国営企業が40年かけてスズキインディアに結実し、ほかにもキルロスカ・トヨタ、建機でいえばタタ・ヒタチなどが持続的成長を続けている例として思い浮かびますが、非常に重要なポイントとしてこれらの提携は、ほぼ冒頭から、どの段階から・誰が主たる親権を担うか、それぞれどんな義務を果たし、成長の果実をどう分配するか、という大原則が合意されていた、ということです。
乱暴に喩えるなら、契約結婚(win-win)は離婚しやすく、子育て夫婦(the-win)は長続きする、という構図でしょうか。比喩としてはやや乱暴かもしれませんが、わりあい正鵠を射ているのではないかと思っています。
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いま提案されてきた提携は、どういうタイプでしょうか?あるいはいま、思案をめぐらされている既存の提携は、どのようなタイプでしょうか?資本を含む提携に進まれる場合は、わりあい素朴な"the-win"が描けるかどうか。親のエゴでなく、子が育つ悦びを分かち合える相手であるかどうか。ぜひご一考ください。

